のんべえがコロナ禍を救う⁉ 子ども食堂3つのカタチ
「さいとう屋さんって、子ども食堂始めたんだって!?」
「うん、休日返上して、1人でやってるよ」
「あのおっさん、やるなぁ」
コロナ禍の夏、平日の午後に覗いた宇ち多゛で、三代目の朋(一郎)さんに話しかけられた。老舗の暖簾を守る者として、いつもは強面のキャラに徹している朋さんが一瞬優しい眼差しで微笑んだとき、まだ僕にはその意味が分からなかった。
その謎が解けたのは、後日セブンイレブン限定で「立石宇ち多゛のうめ割り風」焼酎ハイボールが発売された時だ。等々力駅近くのセブンイレブンでたくさん買い込んで、お馴染みの風景のイラストが描かれた缶を見ていると、側面に小さな文字が書かれていた。
「当製品の収益の一部は宇ち多゛店主により、葛飾区の子ども食堂に寄付されます」、そういうことだったのか。初めて、あの日の微笑みの理由が分かり、不覚にも目頭が熱くなった。
奥さんのようちゃんが作るおいしいおかずが有名で、〆のナポリタンやおやじカレーもあるさいとう屋なら、子ども食堂も可能だろう。でも、もつ一筋の宇ち多゛には、子どもに出せるごはんはない。
構想1年、実はお酒が強くない朋さんは、頬を赤らめながら何日も、何日も試飲を繰り返したのだろう。その姿を想像しただけで、箱買いに走った友人たちが何人も出現した。店では、ストレートのタカラ焼酎に天羽の梅(梅シロップ)を垂らすだけ。
だから、この缶チューハイは、決して宇ち多゛では飲むことのできない、プレミアムな焼酎ハイボールだ。
「せめてメシぐらいさ、腹一杯食わせたいって思ったんだよ。だってさ、ご飯食えないのキビしいだろうと思って」
さいとう屋の店先では、仕込みの時間からずっとテレビがつけられている。コロナの季節になったとき、店主のイサオさんがいちばん気になったのが、お腹を減らしている子どもたちのニュースだった。
学校が休校になり、給食にすべての食を委ねている子どもたちが飢餓状態になっている。とにかく、居ても立ってもいられなかった。妻のようちゃんに相談すると、黙って頷いてくれた。
だったら、誰にも手をかけずにやろう。店でただ1つ、イサオさんが作り上げるメニュー、おやじカレー。スパイスの配合から始めるカレーは、客たちにも人気が高い。このカレーの辛さだけを抑えれば、子どもたちの大好きなカレーになるはず。使う肉や具材は、その時々決めて行けばいい。
かくして、イサオさんワンオペの「さいとう屋/子ども食堂」がスタートする。告知のため、苦手だったSNSも苦心して覚えた。
立石仲見世の出口を過ぎ、奥戸通りを渡り、東立石にある四ツ木製麺所は、おいしいうどんと魚河岸から仕入れるおいしいつまみで有名な飲めるうどん屋だ。呑んべえたちの間で「宇ち入り」と呼ばれる、宇ち多゛からのはしご酒で立ち寄る人も多い。
コロナ禍で、立石詣の数も減り、行ったとしてもはしごすることは少なくなった11月の午後、越谷から駆けつけてくれた旧友を連れて、久しぶりの四ツ木製麺所を覗いた。ここの守田さんと、宇ち多゛のソウさんは九州の大先輩、意外に下町には九州人が多い。守田さんに久闊を叙して席に座ると、例の缶チューハイが積まれていた。
なるほど、義理に熱い守田さんだから朋さんの行動を応援してるんだな、そんなことを考えながら横を見ると、「おうちの色々な理由で/おなかがすいているお子さんへ」という、守田さんのメッセージがあった。
「お店に無料でご招待します/おうどんを沢山食べてね」という文章が続く。右下には「四ツ木製麺所/うどん子ども食堂」の名前が輝いていた。
休日返上して、たった1人で子ども食堂を始めた学芸大学のさいとう屋。立石の地で、その店ならではの立ち位置で子ども食堂に参加した宇ち多゛と四ツ木製麺所。この季節、何かと悪者扱いされがちだった飲食の先輩たちに、惜しみないエールを送りたい。
でも、僕らのんべえにだって、きっと何かができるはずだ。まずは、学大で、立石で、たくさん酔っ払おう。店に行けない日は、梅割風の缶チューハイを買おう。
宇ち多゛※住所・電話番号は掲載不可
さいとう屋/子ども食堂
東京都目黒区鷹番3-1-4
TEL:03-6760-2824
四ツ木製麺所/うどん子ども食堂
東京都葛飾区東立石2-11-7
TEL:03-5670-7610